アンズるより買うが安し
 果樹の本によると、「杏」は栽培簡単で家庭向き、だそうだ。
杏と書いて「あんず」と読む。
杏里(あんり。歌手か?)だったか、杏仁豆腐(あんにんどうふ。みつまめに入ってる?)だったか、「杏」は一般生活でちょっと見かける字のような気がする。

 そもそも「アンズ」って、なんじゃい?。
オレの地域では、なじみがなかったこともあって、長い間よくわからんかった。
アンズとは、ウメとスモモの中間的な果実のようで、どちらかというとウメの完熟果によく似ているようだ。
では、オレが一人占めして植えてみようじゃねえか。

写真
この写真はオレが撮影したものではなく、
別ホームページから引用したものだ(現在リンク切れ)

 アンズの苗木はある。
「平和」というアンズが一般的で、これは戦争が終結したのを記念して名付けられたそうだが、それが大平洋戦争でなくて、第一次世界大戦の終結を記念したそうだから、いかにも時代の古さを感じる名前だ。
大正時代じゃねえか。

 そもそも戦前(五十年以上前だ!)の製品を今でもそのまま使用・生産することは、現代社会ではあまり無いだろうけどさ、それが旧東独のトラバントも真っ青の五十年、百年前に開発されたものが、現役で流通・生産しているものが果樹界ではゴロゴロあるくらいだ。

※トラバント=車のモデルチェンジが全く行われないまま長々と生産が続いた東ドイツ製の車。性能はあまり良くなかったらしい。

アンズはどれがいいかなっと
 果樹カタログを見たら、アンズは「平和」だけじゃなく、いろいろあることがわかった。
アンズは酸っぱいものが多いようで、この「平和」はやや酸っぱいらしく、一方、最新品種のアンズなら甘くて果実のサイズも大きいようだ。

 「平和」は主に加工用として栽培されているようだ。
いろいろ調べたら、そのころ登場したばかりの最新品種「信州大実」は大きな実が成って、生食にも加工にも良いアンズだという。
これがいい!と思い、買って育てることにした。

 で、通信販売で買って植えた。
「信州大実」の苗木は、植える場所の都合上、日陰の所に植えたせいか発育不良になってしまった。
少々伸びた枝はピンクっぽくフワフワした枝で、病気のようだったので、結局あえなく伐採するはめになった。

 そこで再びアンズ苗木を買うことにした。
新しい情報をさらに仕入れて、今度は果実の大きさよりも甘さが特徴の「ゴールドコット」というアンズを植えることにした。

 これでいこっと!。
今度は、日当たりの良い場所に植えた。
まあまあよく育って、とはいえ、木の枝の分岐が少なくてヘンテコな形となってしまって、全体的にも傾いてしまった。
木全体が傾いたのは変だが、なにしろ、隣の木と近すぎて空間の余裕がないので、しょうがない。

アンズのピンク色の花
 ヨーロッパやアメリカ産のアンズ品種は、日本では栽培が難しいものが多いらしい。
ゴールドコットは日本でも栽培可能という情報を得ていたが、なんだか不安になったので、日本産のアンズ「平和」も買って植えておいた。

 だが!、もう場所が狭苦しいのなんのって、オレの果樹栽培は、たくさんの本数を買い過ぎていた。
で、やっぱり気が変わって「平和」は小さな苗木のうちに結局伐採してしまった。
でも、ゴールドコットだけは実を成らせたかったので、そのまま育てた。

 ゴールドコットは一応よく伸びて、高さ三メートルに達し、ついに「花」が少々咲いた。
ピンク色の花だ。
やった!。
収穫できるかもしれないぞ。

 アンズは、一本だけでも実がなるものが多いから、受粉の心配はあまりいらない。
さて、結実は?。
咲いた花は、花の数が少なすぎたためか、実は成らなかった。
しょうがないなあ〜。
でも、来年は成りそうだ。

 期待ワクワクしていたら、次の年は前年よりもマシな数のつぼみをつけた。
収穫は、…ゼロ。
咲いても、そのまま散ってしまった。
だんだんイライラしてきたオレは、もうちょっと枝が茂りさえすれば成るはずだと、我慢我慢で辛抱だ。
この一心で、再び一年を過ごしたのであった。

 窮屈な場所なので、日が当たるようにと冬の間に余分な枝を切っていたが、切り過ぎると実が成らなくなるので、注意深く枝を残しておいた。
このときよく見たら、花芽(短果枝)らしき枝が結構たくさんあった。
ここに花が咲くはずだ。

アンズを植えるより買うのが安い
 で、春になった。
花芽らしき枝からは、結局花は咲かなかった。
花芽の生育は不調か?。

 そのかわりといってはなんだが、長い枝の側面に花がズラズラッと咲いた。
木全体の茂りからすれば、少々わびしいものだが、数十個の花が咲いた。
結実・収穫は、…一個もなし。

 があああっー!。
アンズ栽培は、結局ひとつの収穫もなかったんだ!。
十年近くかかって、ゼロだぜ!、ゼロ。
長い年月をかけて、じわりじわりと失敗がわかってきた。

 思い出すとキレそうなので原因を考えると、オレの地域では黒土が深さ一メートル以上あるため、アンズ・プルーン・ユスラウメ・スモモ・一部の柿において、発育過剰による結実不良を起こしやすいらしい。

 栄養ゼロでは育たないが、栄養が充分過ぎても実が成らなくなる、という変な特性が果樹にはあるんだ。
これを知っていたので、オレは肥料を全然やっていなかったが、この有り様だもんなー。
オレはアンズに関しては、これ以上、もうなにも言いたくない。

「アンズるより買うが安し」おわり

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