フェイジョア アポロの発育
 アポロが届いたのは、多分春先で三月だったと思う。
植えるにしては、まだ少々寒かった。
三月といえば、まだ霜が降りている時期で、北風もわりと吹いていた。
桜だってまだ咲いていねえ。

 こんな時期だったけど、オレはもう大丈夫と判断し、かまわず畑に植えた。
オレの事情もあって、なにしろ届いた苗木はでかいし、水もやらなきゃなんねえし、日光にも当てなくちゃならねえし、第一そもそも、宅配の段ボール箱の中に苗木を詰め込んだまま一ヵ月以上も置いたままにしていいわけがねえ。
しょうがないじゃん。

 春先なら、いくら冷え込んでもせいぜいマイナス二〜三度くらいだから、植えても大丈夫だっぺよ。
もっとも、今にして思えば、植木鉢に植えるという方法もあったがな。
さて、寒い露地に植えられたアポロ君だが、幸い大きなダメージも無く、本格的な春を迎えた。
そして春になってから、かなり遅くなってから新芽を出した。

 まったく発育開始が遅え。
もう、桜はとっくに散っているんだから、さっと伸びてくれよ、頼むぜ。
ようやく伸び始めたアポロ君だが、一年で二十センチくらいの伸びだった。
のろい。
フェイジョアの発育というのは、まあ、こんなもんみたいだがね。

偉大なる一歩
 夏は雑草が元気よく伸びたが、フェイジョアの周りだけは草取りして、日当たりを確保した。
なにしろ値段の高い苗だ。
もったいないからな。

 幸い、アポロは一応無事に育って、いよいよ冬を迎えた。
北西の風は、アポロにも吹きつけた。
植えた場所は、いくぶん風の勢いが弱いところだが、やはり風に吹かれていた。
こりゃ、やっぱりマズいかもよ。

 さてこの冬、寒い風に吹かれて、またしても全部落葉。
してしまったように思う。
なんてこったい!。
しかし、幸い枯れなかった。
春になって、おそまきながら再び芽を伸ばし始めた。
まったくいつもながらヒヤヒヤもんだぜ。

 ところがだ、とっても意外なことに、春に花が咲いたんだ。
五月か六月のころだったかな。
花は二つ。
小さなつぼみもあった。
写真で見たような、すごくキレイな花だ。
枯れ野に花、いや、ヤブに花、とでもいうか、場違いな感じさえする美しさだ。

 少々あさましい話になるが、この花びらは食えるらしい。
どうも甘ったるい味がするらしい。
が、多めに食うと気分が悪くなるらしい。
だから、ちょっとだけ食うのがいいみたいだね。
オレか?。
オレは、ひょっとしたら実がつくかもしれないと思って、花は食わなかった。
でも、花は実にならずに散ってしまったけどよ。

初心忘れるべからず
 花が咲いた年、オレは草取りサボってしまった。
というか、あれは大変だぜ。
巨大なカマを振り回して、雑草を刈り取っていたもんだ。
一年に一、二回ならともかく、キレイに管理するなら一年に五回は草取りが必要だろうな。
刈り取り作業に甚だ疲れたオレは、フェイジョア周りの草取りするのを、その年の後半はサボってしまったんだ。
果たして冬。
アポロはあえなく全部落葉してしまった。

 落葉して枝だけになったアポロの様子を見ると、なんだか重症みたいで、試しに枝をちょっと折ってみると、簡単にボキボキ折れてしまう。
これは枝が枯れている証拠で、生きていれば弾力性があって、そう簡単に折れることはないんだ。
あ〜もうだめか、と思いつつ、春をむかえた。
そしたら、アポロの幹の根元付近から、新芽が伸びてきた。
寒さでアポロの枝は全て枯れたが、根元だけはなんとか生きていた、わけだ。
ふう、ぎりぎりセーフだ。

 で、この根元から伸び出した新芽を、オレは再び育て始めた。
早く大きく育てなくちゃな!。
が、なにしろ今度は、新たに伸び出した芽を根元付近から育て直すわけだから、オレが育てたフェイジョアの中では高さが一番低い。
つまり雑草に最も埋もれやすいわけで、今まで失敗つづきのオレにとって大丈夫なのか?。

 アポロ自体も衰弱したみたいで、あまり元気がない。
秋までに、アポロの新芽はヒョロヒョロと二十センチほど伸びたと思うが、虚弱体質の枝になってしまった。

 で、冬到来。
アポロは、あっさり枯れてしまった。
短い命であった。
ぐうおおおっ〜!。
わきあがる怒りをどうしたらいいのか。
オレは、ただ、苦労と年齢ばかり費やした日々を振り返るのであった(大げさ)。

プリティーグリーン登場
 お〜オラオラア〜。
またもや失敗かよ。
こうなったら意地でも栽培してやる!。
今度は全力を挙げてやり直しだ!。

 そのころから日本花卉では「プリティーグリーン」というフェイジョアが載るようになっていた。
プリティーグリーンは別名「鈴なりフェイジョア」とか表示されていて、これはカタログ上での宣伝文句だろうけど、なかなか魅力的だ。
しかも、一本だけでも成るんだそうだ。
値段もフェイジョアにしては、わりと安い。
よし、オレはこれを買おう。

 しかし、失敗にはすっごく懲りたからな。
そこで、プリティーグリーンは二本購入することにした。
二本にしたのは念のための予備だ。

 そしてプリティーグリーンの苗が大きく育つまでは、鉢植えで育てることにした。
鉢植えにすることで、寒い日は家の中に取り込むことができるから、寒さで枯れることはないだろう。
よっしゃあーっ、この作戦でいくぞーっ、オラアー!。

 オレはホームセンターに行き、大型の植木鉢を二つと、腐葉土を買ってきた。
そして、腐葉土に畑の黒土を充分に混ぜて、植木鉢に入れた。
そして、プリティーグリーンを一本ずつ鉢に植えた。
これでよし。

 しかしまあ〜、金がかかったねえ。
フェイジョアに関しては、苗木代だの、植木鉢の代金だの、通信販売の発送費とか、過去の失敗した苗木代まで含めると、これらの金額は総計一万円を超えてしまう。

 一万円もあれば、スーパーマーケットに行ったら果物が山盛りで買えるじゃねえか。
山盛りでたらふく食えるんだぞ。
これに対して、フェイジョアの収穫は今まで一個もない。
収支を考えると、これじゃ費用超過の大赤字だ!。
なんてこったい、おらぁ!。

鉢植えで栽培開始
 フェイジョア「プリティーグリーン」は、鉢植えで栽培開始!。
よしよし、順調に育っているぞ。

写真
植えてから、ほぼ三年のプリティーグリーン
高さ約70センチ 1998年10月10日撮影

 だが、一九九八年は、フェイジョアは秋になっても新芽がヒョロヒョロ伸びた。
経験からいって、このヒョロヒョロ枝は冬に枯れそうだった。

 そこでこの冬に限っては、フェイジョアの鉢植えを屋内に入れることにした。
フェイジョアの鉢植えは二つあったが、どちらもデカイので、片方だけを部屋に入れることにした。
屋外に残したフェイジョアの方は、寒さで枯れるかもしれないとオレは心配した。

 さて、屋内に入れて安全になったはずのフェイジョアだが、予想外なことにだんだん不調になってきた。
葉っぱの緑色が薄くなって黄ばんできて、巻き込むように丸まってきた。

 葉の色が薄くなったのは、窓際に置いていたが、日照不足が原因だと思う。
葉っぱが丸まったのは、部屋が暖かすぎて乾燥したためか?。
水は充分やってあるんだけどな。
原因はよくわからん。
慣れない環境に急に移したためかもしれなかった。
このままじゃ枯れそうだった。

 皮肉なことに、寒い屋外のフェイジョアの方が、ずっと元気だ。
オレはどうしたらいいのか困ってしまった。
結局、フェイジョアは、両方とも屋外で冬越しさせることにした。

枯れたフェイジョア
 だが、一九九九年の一〜二月ごろは、茨城県では例年よりも強い寒波が続いた。
オレの心配は適中して、フェイジョアの葉っぱはほとんど落葉して、枝は枯れ込んでしまった。

写真
枯れたフェイジョア 1999年2月14日撮影

 ただし、根っこは生きていた。
幸い五月ごろから、根元から新芽がモジャモジャ伸びてきた。

 それにしても、これでは毎年安定した収穫は無理そうだった。
冬に枝先が枯れることが多かったが、花や果実は枝先周辺に着くだろうから、オレの地域でのフェイジョアの寒害は致命的だ。

 これから十年以上も栽培できそうにないと思ったことと、毎年ビクビクしながら栽培するのはメンドくせえと思ったこともあって、オレは栽培を断念して、切ってしまった。
以上で、フェイジョアの栽培はいったん終わりになってしまった。

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