柿食えば日本の秋 渋柿編
 「シブガキ?。渋くて食えねえじゃねえか。植えるなら甘柿の方がいい」とオレは思った。
柿を食うなら、甘柿を植えれば済むことじゃねえか。

興味を持ったキッカケ
 オレは最初、渋柿にはほとんど興味がなかったんだ。
だけど、今となっては栽培しているけどな。
どのようにして現在に至ったかをこれから述べてみよう。

 そもそも渋柿というのは、オレが住んでいる地域では干し柿として使うことが多い。
でもよ、干し柿というのは「それほどうまいもんじゃねえなー」と当時のオレは思ったよ。
甘いものがない昔の時代なら、そりゃ大事な甘味だったかもしれないけどさ、現代に生きるオレとしては、干し柿の味に、さほどこだわりがあったわけじゃあない。

イラスト
干柿の作り方は地域によって違いがあろうが、
うちではでこのように作っている。

 でもオレは結局、渋柿を植えることになったよ。
なぜかというと、まず第一に親からは「干し柿がどうのこうの…」としつこく言われたためだ。
なにしろ果樹を植えている畑は親のものだから、さすがに無視するわけにはいかない。

 それとオレ個人としても、冬は収穫がなくてヒマなんだよな。
十二月から五月まで、じつに六カ月にわたって、オレの場合は収穫がない。
温室栽培しているわけでもねえし、オレが育てた果樹で冬に食える果物といったら、キウイフルーツと、あとは、ユズと…梅干しくらいか、あるのは。
フルーツのジャムとかビン詰めでも作っとけば、冬に食えるかもしれねえけどさ、どうもオレ、調理自体は苦手なんだよな。
だからあまり作ったことがない。

 しかし、干し柿にする作業は親自身がやると言っているし、それに冬に食える果物は他にあまりねえことを思えば、干し柿の存在はむしろありがたいんじゃねえか、と思えてきた。
冬、庭でブラブラしているときに、軒先から干し柿ちぎって勝手に食ってしまう、というのも良さそうだ。
ただし後日、実際に食ったりしていたら「できないうちから食うな!」と親からいちいち叱られたので、思うようには食えなかったけどな。

渋柿は何を植えようか?
 渋柿を植えるにしても、いったいどんなものを植えればいいのか、いろいろ調べてみたよ。
本をあれこれ読んだところ、「四ツ溝柿」という渋柿が特に優秀だとか。
ただし、果実のサイズが小さすぎるので経済栽培には向かず、一部の地域にしか栽培されていないという。
よし、渋柿は「四ツ溝柿」に決めた!。

写真
四ツ溝柿

 この「四ツ溝柿」を、オレは干し柿用として植えることにした。
果実が小さいという欠点についてだが、干し柿にするなら早く乾くだろうから、かえって都合が良さそうだ。
よっしゃー、この四ツ溝柿を一本購入することにしよう!。

 でもこの四ツ溝柿だけではリスクが高いと思った。
なにしろ近所では見かけない渋柿だからな。
茨城県の「普通の渋柿」も植えた方が、確実にたくさん収穫できるだろうと思った。

 オレの地方で、普通の渋柿というのは「蜂谷柿」というのが該当するらしい。
なお、「蜂谷柿」の正式名は「堂上蜂屋」という。
オレは、これも植えることにした。

購入と成り出すまで
 四ツ溝柿の苗木の購入は、とってもめんどくさかった。
電話で聞いてまわって、静岡県の店から、ようやくのことで苗木を買うことができたっけ。
自宅に苗木が届いたのは、一九八九年の初春ごろだったと思う。

 一方、蜂屋柿の苗木購入はわりと楽で、近所で買うことができた。
その後、果樹苗の通信販売で代品として蜂屋柿が届いたこともあって、蜂屋柿は計二本になった。
こうしてオレは、四ツ溝柿一本、蜂谷柿二本、を育てることになったわけだ。

四ツ溝柿の発育
 四ツ溝柿は半日陰気味の場所に植えたので、果樹を育てる場所としてはあまり良くない。
畑の都合上、まあ、それは半ば仕方なかったとしても、四ツ溝柿がなかなか育たないのには困った。
細かい枝は伸びたものの、モジャモジャ密生してしまう。
そんでさ、樹の高さは一メートル半ほどで留まってしまう有様。

 柿の樹なのに、なんで低いんだろ?。
それでも実が成るならかまわねえんだけど、それがダメなんだ!これが!。
細かい枝につぼみが付くことがあったが、果実には育たずに、みんな落ちてしまう。
なんじゃこりゃ!ヤベーよ!。

 二年続けてつぼみが全部落ちてしまったのを見て、オレはアタマにきた。
葉っぱが密生していたから、日照不足なんだろうと思い、重なりあった葉を徹底的に取り除いてみた。
初夏で光合成が盛んな時期だったが、なーに、この際かまやしねえ。
むしってしまえ。
そしたら意外なことに大効果で、太い枝が急にグングン伸びるようになったんだ、これが。
なんだ、すごいじゃん。

 次の年からは、大幅な強い剪定をするようにしたら、四ツ溝柿は見違えるように良く育つようになった。
よかった、よかった。
剪定のことに気付くまでに数年間かかってしまってよ、余分な年月がかかってしまったことがオレとしてはちょいと残念だな。
まー、幸いうまくいったんだから、いい経験だったということで我慢すっかな。
その後、四ツ溝柿は、オレの果樹のうちでは木が一番大きく、高く育ったよ。

 一方、蜂屋柿の方はとくに問題なく順調に育ったよ。
初収穫は四ツ溝柿よりも早かった。
蜂屋柿はもっと大きく育てば、もっとたくさん収穫できるようになるはずだ。

実が成りだした
 そしてついに、四ツ溝柿が成り出した。
一九九六年の秋のことで、植えてから七年目ぐらいかな。
見事に百個位の収穫があった。

 もっと栽培環境を良くしておけば、もっと早くから大きく育ったと思うし、収穫も数年早めることができただろうと思うけどよ。
栽培の初期は失敗だったと思うんだけど、でも、成り出したんなら、まあいいや。

蜂屋柿の発育と成り具合
 オレの近所では蜂屋柿は代表的な渋柿だから、確実に収穫できるだろうと予想していた。
が、蜂屋柿の樹はよく育ったものの、実がなかなか成らないでやんの。
それでもオレは育てつづけたが、樹はどんどん大きくなっていったが、実が毎年ろくにならない。

 毎年二〜三個の収穫か、またはゼロ、のありさま。
どうも樹ばかりが育ち過ぎてしまったようだ。
十年もすれば、いずれは落ち着いたかもしれないけどな。
だが、致命的な問題が起きた。

 柿の枝は比較的折れやすいらしいが、蜂屋柿はとくに折れやすいみたいで、台風で折れてしまったんだ。
それも樹の中心である主幹が、ボッキリ折れてしまった。
オレが植えた蜂屋柿は二本だったが、それが二本とも相次いで折れてしまったんだ。

 とはいえ、折れた箇所から新しく芽を育てれば、再び育て直すことは可能だった。
だが、考え直してみると、オレの畑では蜂屋柿は不向きなんじゃないかと思えた。
なにしろ、実が少ししか成らないのだから。

 同じころ、同じく渋柿である「四ツ溝柿」が、順調にしかも大量に果実が成り出していた。
いろいろ考えて、検討の結果、蜂屋柿は二本ともあえなく伐採となった。
蜂屋柿は九年ぐらい栽培して、全収穫は二十個も無かったのではなかろうか。
予想外の失敗だった。

つづく

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